ブルゴーニュ(その2)

美食の神々に選ばれたゆえに、ブルゴーニュ・ワインは修道士達の活動なくして語れない。修道院は教会と並ぶ信仰の場であり、一般信徒の集う教会に対して、修道士達がキリスト教世界の知を創造する中核的存在であった。絶大な権力のもとで華美な生活を送っていた教会の聖職者に対して、本来の勤勉な信仰を主張したのが修道院運動である。この改革運動は529年、修道士ベネディクトゥスが、ローマ南方のモンテ=カシノに修道院を創設したことに始まる。ベネディクト修道会の活動は、その後のヨーロッパ各地に広がる運動の礎を築くことになる。その波はブルゴーニュにも到来し、マコンにクリュニー修道院が創設されたのも神の計らいかもしれない。

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ロマネ・コンティの開墾を行なった、マコンのクリュニー修道院

ブルゴーニュはベネディクト修道会の中心となり、最盛期には管轄下におく修道院1200、修道士2万人を数えたという。さらにクリュニー派から、より質素な信仰を再建しようとする運動が起こり、ニュイ・サン・ジョルジュの葦が生い茂る荒れ地に修道院を創設したことからシトー派の活動が始まった。ブルゴーニュのシトー派の活動は中世ヨーロッパで強い影響力を誇った。これら修道会で活動した修道士たちは、戒律を守る哲学者であり、新農法を研究する科学者でもあった。クリュニー会の修道士は、ロマネ・コンティ、ジュヴレ・シャンベルタン、マコンの葡萄畑を、シトー会の修道士は、クロ・ド・ヴージョ、ムルソー、モンラッシュなどの葡萄畑を開墾した。今日の「利酒騎士団/コンフレリ・デ・シュヴァリエ・デュ・タストヴァン」の本拠地も彼らの手になるものである。

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シトー派の修道士達が開墾した、クロ・ド・ヴージョと利酒騎士団の本部

ブルゴーニュでは、ボルドーやローヌのようにいくつかの葡萄品種を混ぜる事はしない。フランスのワイン醸造に使われる葡萄品種は数多いが、ブルゴーニュでは神から賜わった単一品種が使われる。偉大な赤ワインを生み出すピノ・ノワール種は、牝が優れた遺伝子の雄を選ぶがごとく、神から授かった土地しか選ばない。我が敬愛するジャンシス・ロビンソン女史も『それは疑う余地なく女性的で、栽培者、醸造者の誰をも苛つかせる品種なのだ。我々をつらいダンスへと誘い、自らが飼い馴らされることには頑強に抵抗する』と記している。幸運にもこの葡萄に選ばれたシャンベルタンやヴォーヌ・ロマネの畑の赤ワインは、華麗で妖艶な香りと気品に満ちあふれたフィネスが同居する神の雫となる。

白ワインに使われるシャルドネ種は、ピノ・ノワールとグーエ・ブランの自然交配により生まれ、個性がないところが個性と言われてきた。現在ではブルゴーニュはおろか世界中で栽培され、誰にも嫌われない品種として親しまれている。しかし神から授かったモンラッシュの畑では『帽子を手にして、ひざまずいて飲むべし』とデュマが称賛した偉大な白ワインを生み出す。

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中世の葡萄収穫と破砕

現在のブルゴーニュ・ワインについては、ブルゴーニュ委員会の素晴らしいホームページをご覧いただければ、今更説明する必要はないであろう。特に映像資料は学ぶべき事が多い。必要な資料はダウンロードできる。

ブルゴーニュワイン。時への賛辞とそれを大切にするものたち

ブルゴーニュ・ワインの生産地区

ブルゴーニュのテロワール

ブルゴーニュ委員会
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http://www.bourgogne-wines.jp/