味わいの数は果てしない(Le nombre des saveurs est infini.)。ブリヤ=サヴァランの生まれたブルゴーニュ地方は、カサノヴァ風に例えるなら、ディアーナ、ケレース、ウェスタの神々はもとより、バッカスのとびきりの贈り物さえ全て満ちあふれていることは、美食家の誰しもが知るところである。
ロベール・クルティーヌが改訂したラルース料理百科事典のこの地方の項目には、プロスペル・モンタニュやオーギュスト・エスコフィエの友人であった、ブルゴーニュ生まれのフィレアス・ギルベールの素晴らしい描写が引用されている。
『村の太鼓が、葡萄収穫の開始を知らせ、葡萄園の長老たちと、取木術の大家たちが揃って葡萄収穫の挨拶をするそのときから、搾り器でつぶされた葡萄の入っている最後の樽が、テューブにあけられてしまうその日の夕刻まで、すべてが和気相会いの気分と歌につつまれていた。』
『そして、昼食のうめ合わせとして、夕食のメニューには伝統的な「ポテ」の付いたご馳走が奮発されるが、男女の摘み取り人たちは前から、そのたくましく美味しい匂いをかがされている。アンリ・スゴン(詩人)が言っているように、「豚脂肉入り砂糖入りキャベツの煎汁」、それに「鵞鳥のタリボード風」や、この機会に便乗していけにえにされて、奇妙な煮込み—やはり美味しい—に姿を変えた牝羊があった。』
『羊の先輩にあたるこの牝羊の肉は、ときたま羊の脂肪特有の匂いがあるが、ならすためには、腹の出た水差し形の壷から新鮮なワインを注ぐのであったが、それこそ盛りだくさんの食べ物と酒盛りに相応しかった。』
『一番美味しい料理がふんだんに出て来るブルゴーニュの食事は、全く驚嘆すべきものである。例えばエスカルゴ。もちろんブルゴーニュ風に料理されている。各種の魚のムーレット(ワイン煮)、インゲン豆入りのアンドゥイエット、牛の滋味豊かなドーブ、また伝統的なフェルシューズのナメジェール風、ポロ葱を入れたフラミッシュ、豚の脂身を用いたフエとブルゴーニュ風の菓子リゴドンが供された。』
葡萄収穫の時期は、いちばんブルゴーニュらしい料理が楽しめる。