世界には、それぞれ持ち味に優れた牛種がおり
それぞれの地域の料理と密接に結びついてきました。
アバディーン・アンガス種を頂点とする肉用牛の世界三大品種
フランス料理の発展に寄与したシャロレー種
ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナに欠かせないキアニーナ種
日本料理には黒毛和種や褐毛和種など・・・
いただき方にも様々な調理法があります。
<現代の代表的な肉用牛>
スコットランド北東部のアバディーン州とアンガス州の在来種の系統を交配して誕生したと考えられており16世紀に遡る。現在のアバディーン・アンガス種は、畜産研究者ウィリアム・マコンビーにより、1842年、角無牛に改良され、1862年に血統登録された。全身黒色で被毛は短い。古くから肉用牛として改良されてきたことから、筋繊維がきめ細かく肉質が柔らかい。アバディーン・アンガス牛の登場により牛肉の調理法が、煮込料理からロースト料理になったといわれる。日本には1916年に初めて輸入され無角和種の交配に利用された。繊細な肉質のため、黒毛和種でサシと呼ばれる筋肉の間に脂肪の白い塊が大理石のような模様を描く、筋繊維の粗い脂肪交雑ではなく、筋肉そのものにきめ細かく脂肪交雑するため霜降りになりにくい赤身肉が特徴。ニューヨークスタイルのTボーンステーキやロンドン名物のローストビーフにはアバディーン・アンガス種はかかせない。
そもそもイギリス在来種は、元をたどれば古代にはケルト人やローマ人が持ち込んだもの、中世にはノルマン人が持ち込んだもの、さらにオランダから輸入されたものなどが交雑し、ひとつの品種といえるような共通の特性を持ちあわせでいなかったと考えられている(*1)。その中でイングランド南西部ヘレフォード州において、ウェールズの白色大型牛とオランダの大型牛の交雑種を祖として改良されたものが、ヘレフォード種と呼ばれる様になり1846年に品種登録された。丈夫で飼いやすいことからアメリカで品種改良が進み、アバディーン・アンガス種に比べ肉質の筋繊維が粗いといわれていたが近年向上している。アメリカではヘレフォード協会により認定された品質は、サーティファイド・ヘレフォード・ビーフ(Certified Hereford Beef/CHB)と呼ばれ、米国農務省(USDA)により認証されている。(*1)=正田陽一編/品種改良の世界史
イングランドとスコットランドが隣接するダラム地方が原産。1804年、この地方の在来種をもとに畜産研究家コリンズ兄弟が改良したコメット号がこの種の祖となった。その名の通り角が短く、中型種のわりに肉付きがよい。日本には1869年に輸入され日本短角種の改良に使われた。アバディーン・アンガス種を頂点とする肉用牛の世界三大品種のひとつ。乳肉兼用種と肉用種がある。アメリカでの純血種は、アメリカン・ショートホーン協会(American Shorthorn Association/ASA)によって登録管理されている。
フランス最古の肉用牛でシャロレー地方原産。筋肉が非常に発達することから脂肪が少ない赤身肉として、生でタルタル、焼いてもブルーかレアーで供される。乳飲み仔牛の味わいは絶品でフランス料理の発展に大きく寄与した。シャロレー種は純粋種として育てられるだけでなく、高い肉質と高割合の筋肉を混ぜ合わせた一代交雑種(F1)を生産する際にも使われる。アメリカでの純血種は、アメリカン・インターナショナル・シャロレー協会(American-International Charolais Association/AICA)により登録管理されている。
フランス中部リモージュ地方が原産。在来の役用牛を改良し、1886年に役肉兼用牛として改良された。シャロレー種より脂肪が少なく、きわめて柔らかい肉質を持つ。シャロレー種と同じく一代交雑種(F1)を生産する際にも使われる。アメリカでの純血種は、ノース・アメリカ・リムジン財団法人(North American Limousine Foundation/NALF)によって登録管理されてる。
トスカーナ地方のキアニナ渓谷が原産。古代エトルリア時代は真っ白で堂々とした体格かた神聖なものとして崇められた。ローマ時代では役肉兼用種であったが、改良が重ねられ中世には肉専用種となる。フィレンツェの名物料理、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナには欠かせない。毛色は白色単色で、赤身肉本来の素朴な味わい。
日本には明治時代から輸入されている乳用種。オランダのホルスタイン地方が原産とされる。日本で飼養されている肉用牛の40%はホルスタイン種で”国産若牛”などと呼ばれる。またこの種のメスに黒毛和種のオスを交雑した一代交雑種(F1)の肥育が盛んになっている。
インド原産。気候が蒸し暑い熱帯、亜熱帯地域に適応する牛としてアメリカ南部で改良され、フロリダ、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナなどで飼育されている。アメリカでは高温環境下でも病気の免疫力が高いことから、アバディーン・アンガス種など他品種と交雑して一代交雑種(F1)を生産する際に使われ、アメリカ全土における養牛生産を可能にしているほか、オーストラリア北部の熱帯地域でも大規模に飼育されている。
ブラーマン種とアバディーンアンガス種を交雑した品種。1949年に新品種として協会が設立された。ダニ熱に対する免疫力が優れており、フィードロット(多頭数集団肥育場/Feedlot)での肥育にも適している。
中国地方で役用牛として飼われていた在来種にヨーロッパ大陸系のシンメンタール種、エアシャー種、ブラウンスイス種などのスイス原産の乳用牛や、イングランド西南部デボン州原産の乳肉兼用牛、デボン種などを交雑し、大正期に”改良和種”の名前で誕生。1937年に役用牛として”黒毛和種”という名称で登録され、その後も改良され続け現在では和牛の95%を占める。元来役用牛に乳用牛を交雑しているため、筋肉の繊維が粗いことからサシと呼ばれる脂肪が大理石模様(霜降り)のように入る肉質が特徴。飼料にはビール粕(*1)を大量に与え、肥育期間短縮と個体の消費エネルギー抑制のため放牧を控え牛房とよばれる牛舎で肥育する。現在飼育されている黒毛和種の母牛の99.9%以上は、但馬牛の田尻号(+2)を祖に持つことから、兵庫県美方郡香美町小代(おじろ)は黒毛和種の故郷といわれる。(*1)=ビール粕は、日本のビール粕。日本のビールには、麦芽やホップ以外に、米、とうもろこし(コーン)、でんぷん(スターチ)、糖類などが使われる。(+2)=2012年、全国和牛登録協会の調査で明らかになった。
熊本、並びに高知で飼育されていた赤牛と呼ばれる朝鮮系の在来種に、ヨーロッパ大陸系のシンメンタール種や韓国牛、英国種のデボン種などを交配。1944年に褐毛和種として登録され、1961年には日本あか牛登録協会が発足した。熊本系は黒毛和種より大型で性質が温順。阿蘇山や四国山地の野草地に放牧する飼育方法で、黒毛和種よりサシの入り方は少ないものの、草を十分に与え育てた健康的な赤身肉。
南部牛と呼ばれた東北北部原産の役用牛に、アメリカから輸入されたショートホーン種、デイリーショートホーン種を交配して1871年頃から改良が進められた。1943年に褐毛東北種として登録が始まり、1957年に日本短角種に改名された。野草を採食する能力が優れていることから放牧適性が高く手間がかからない品種。
<用途別牛種について>
役用牛
農耕作業が目的の牛。田畑で鋤を引かせたり、荷車を引かせたりするため、牽引力のある前躯が発達している。日本では農耕機の普及とともに用途が減ったことで、海外種と交配改良が進められ生まれた肉用牛が黒毛和種に代表される。
乳用牛
牛乳を搾る目的の牝牛。ホルスタイン,ジャージー,ガンジー,エアシャー,ブラウンスイス,デーリーショートホーン種などに代表される。
肉用牛
肉を取る目的の牛。世界三大品種に数えられるアバディーンアンガス種、ヘレフォード種、ショートホーン種に代表される。日本では黒毛和種、ホルスタイン種(雄)など。
乳肉兼用牛
牛乳と肉の両方が兼用できる牛。ヨーロッパ大陸系に代表される。
<関連事項>
Wagyu (わぎゅう/和牛)
牛種ではなく、生産名、流通名、あるいは販売名を指す。アメリカ、オーストラリア、カナダ、スコットランド、中国などでも生産され市場競争が激化している。
●日本=農林水産省ガイドラインと食肉公正競争規約では、国内で出生し飼育された黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種、あるいはその4品種間の交雑種で、トレーサビリティ法に準じている牛肉。
●アメリカ=1990年、アメリカ和牛協会(The American Wagyu Association)が設立され、アメリカ産黒毛和種の”100% Fullblood Wagyu”、アバディーン・アンガス種とアメリカ産黒毛和種を交雑した”F1(一代交雑種) 50% Crossbred Wagyu”、さらにそれらの交雑種とアメリカ産黒毛和種を交雑した”F2(二代交雑種) 75% Crossbred Wagyu”、”F4(四代交雑種) 93.75% Purebred Waygu”の4品種が規定されている。”Wagyu”、”American Style Kobe Beef”などと表示される。
●オーストラリア=アメリカに続いてオーストラリア和牛協会(Australian Wagyu Association)が設立され、アメリカ和牛協会に準じた牛肉を生産している。”Ginjo Wagyu”、”Delta Wagyu”などと表示される。オーストラリア西部のマーガレット・リバー地域では赤ワインが飼料として与えられている。”Wagyu”輸出国としては世界第1位となっており、日本や欧州にも豪州産和牛や豪州産短角牛、また豪州産葡萄牛として出回る様になった。”100% Fullblood Wagyu”の飼養頭数は30万頭に達し、牛飼育総数3000万頭の約1%におよぶ(2015年)。
●カナダ=アメリカに続いてカナダ和牛協会(Canadian Wagyu Association)が設立され、アメリカ和牛協会に準じた牛肉を生産している。
●スコットランド=ハイランド・ワギュウ社(Highland Wagyu Ltd.)が2011年に設立され、古くからの英国系原産種の品種改良のノウハウを基に、但馬牛を中心とした品種改良でヨーロッパにおける和牛生産の地位確立を目指している。
●中国=日中合弁企業の大連兼松雪龍食品有限公司が、オーストラリアから持ち込んだ”Wagyu”の精子を、中国在来種の黄牛に掛け合わせて雪龍黒牛と呼ぶ一代交雑種(F1)を開発。肥育と牛肉の加工は鹿児島ブランド牛を手がけるカミチクが行なっており、いずれ日本で雪龍黒牛が出回る日も近い。
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“プライム・アンガス牛”は、米国農務省(USDA)の基準より厳格な
アメリカン・アンガス協会が定める”10基準”に品質保証された
認定プライム・アンガス牛(PRIME Certified Angus Beef)ブランドの牛肉です。
美味しさの約束。
10 Quality Standards – Science Based Specifications
アメリカン・アンガス協会が定める”10基準”はコチラ
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“プライム・アンガス牛”についての独り言
<美味しいお肉の話 目次>はコチラ